ボイストレーニングを習う目的として、地声で高い声を出したいと思う方が多いのではないでしょうか。女性だとサビでC5(高いド)、D5(高いレ)あたりの音がスムーズに出せれば大体の歌が歌えるでしょう。
このC5(高いド)、D5(高いレ)の音ですが、じつは純粋な地声で出ている音ではありません。純粋な地声はF4(ファ)の音までしか出ないからです。高い音は必ず裏声の要素が必要になってくるのです。
その裏声要素として重要なのが輪状甲状筋です。この筋肉が機能して声帯ヒダをピンと張ったり薄くしたりすることで高音発声が可能になります。
この声帯ヒダが地声と裏声の違いのポイントで、声帯筋と粘膜層の振動の違いで決まってきます。この記事では医学的に見た地声と裏声の違いについてお伝えしていきます。
そもそも発声器官は歌う為だけのものじゃない
発声以外にも生命維持に強く関係している機能でもあるのです。声道は気道でもあるので、生きる為に必要な呼吸がメインの役割です。
- 息を吐く呼気、息を吸う吸気の通り道である
- 食べ物や異物が入り込まないよう物を飲み込むときに、気管の入口にある喉頭蓋がシャットダウンして異物の侵入を防ぐことができる
- 万が一気管に異物が入った時は声帯が声門閉鎖して、肺からの空気圧を増加させ、一気に解放することで咳を出すことができる
- 重たい物を持つ時に声帯を閉じることにより空気圧を高めて力が入りやすいようにする
声を出すことよりも生きる為にその機能があるということが良くわかります。喉頭を吊り下げる筋肉も、口を開けたり物を飲み込んだりする筋肉でもあるのです。
元々ある体の機能を上手く使って歌っているという事です。
体全部を使って歌ってるんだ!と思いながら歌うと一体感があるパワフルな声がでそうですね。
声帯の役割は音を作り出すこと
次からは発声の基本のはなしです。
呼気(息を吐く)が声帯を通過するときに起こる振動によって音が作り出されます。
作り出される音は喉頭原音と呼び、声の元となります。この音はとても小さく、まだみなさんがイメージする声ではありません。
この喉頭原音を元として、声帯筋を中心とした内喉頭筋の補助により、声帯ヒダの形を変化させます。伸縮、硬軟、厚薄の3つの行為によって音程を調整します。(共鳴空間の容積によっては多少音程は変化する)
次に声の種類が決定した喉頭原音を共鳴腔で音を響かせます。この作業を調音といいます。この作業があってわたし達の知っている声となります。
共鳴腔は5つあり、上から鼻腔共鳴腔、口腔共鳴腔、咽頭共鳴腔、梨状陥凹、喉頭室があります。一番重要なのは咽頭共鳴腔です。
声唇は声帯靭帯と粘膜層からできている
声帯を詳しくみていきましょう。
声帯は筋体でできています。筋体のイメージは電気コードみたいにいくつもの線が束ねられているかんじです。その束はある程度の独立性と自由度をもっています。この筋体のことを声唇(せいしん)といいます。
声唇は声帯筋と声帯靭帯、声帯粘膜からできて、表層から非角化重層扁平上皮、ラインケ腔、声帯靭帯、声帯筋の構造になっています。
粘膜層は非角化重層扁平上皮とラインケ腔に分けられ、声帯筋を覆っています。
そしてその間に声帯靭帯があるのです。
声帯筋は一般的に甲状披裂筋の一部として考えられていて、内側甲状披裂筋ともいいます。声帯の緊張を強める役割があります。
地声と裏声の発声のメカニズム
地声というのは、さきほど声帯の構造で説明した非角化重層扁平上皮、ラインケ腔、声帯靭帯、声帯筋の全てが振動するときの声です。
そして裏声は、粘膜層(非角化重層扁平上皮、ラインケ腔)と声帯靭帯が振動するときの声です。つまり内側にある声帯筋は振動していない、停止しているということです。
ちなみに声がひっくり返るというのは、地声で発声してる時の声帯筋の振動している状態から、裏声発声の声帯筋を停止させる切替がうまくできないことによって起こります。
地声は低い声、裏声は高い声のイメージ
高い声と低い声についても説明しておきます。
音の高い低いは周波数で決まります。(空気の振動する回数)高い音は細かく振動し、低い音は高い音に比べて振動回数が少ないです。高い声は声帯ヒダをピンと張り、声門通過の呼気量を少なくした空気の細かい振動です。声帯を薄くして軽くしないと細かく振動できません。
低い声は声帯ヒダを緩めて厚くして、声門が広がり呼気量が多く、空気の緩やかな振動です。声帯の厚さがあるため重く振動が緩やかになります。
ここで冒頭の地声で高い声を出したいという話にもどります。
高い音域の発声は、地声の発声理論でいう声帯筋を動かす動作は難しくなるのです。高音発声は地声発声の声帯筋を緩やかに振動させる動きよりもっと細かい振動が必要だからです。
ここまでの話を聞いてやっぱり地声で高音発声は一部の才能がある人しか無理なんだなと思うかもしれません。
解決方法として声帯の厚さを残して裏声の発声をすれば地声っぽい声に近づく事ができるのです。
声はトータルバランスが大切なので全体の筋肉を正しく覚醒させてトレーニングしていきましょう。